民法の規定によると、相続人が「相続財産の処分」に該当する行為をすると、相続放棄ができなくなります。相続財産の処分は、相続放棄ができなくなる「法定単純承認事由」の一つなのです。
しかしながら、「相続財産の処分」をした場合でも、相続放棄ができる場合があります。民法の条文で規定されていることであるので、条文を詳しく確認しましょう。
民法の条文にあるように、「保存行為」に該当するのなら、単純承認をしたものとみなされることはないのです。
そして気になるのは、相続債務(被相続人の借金)を遺産から支出する行為は、保存行為にあたるのか? ということです。相続人が、被相続人の債権者から取り立てをうけた場合に、遺産のなかから返済できる額であれば、遺産から支出して返済してしまうことは珍しくありません。相続放棄ができるかできないかは相続人にとって重要なことですので、しっかり確認しましょう。
たとえば「腐ってしまう物の処分」などが挙げられるでしょう。腐ってしまうものは置いておいたら経済的な価値がゼロになるだけですから、処分をして換金してしまった方が、財産の現状を維持することにつながるのです。本来「相続財産の売却」は処分行為ですが、この場合は保存行為にあたるため、相続放棄ができるのです。
ここで気になるのは、どの資産を使って弁済しても、結論は同じなのか? ということです。ここは場合に分けて説明をします。
3の場面について補足をすると、3の場面であれば家庭裁判所の処分命令を得て行うことになります。参考までに条文をあげておきましょう。
昔の裁判事例でも、次のように言及されています。
この事例は、被相続人が死亡した場合に相続人が得ることができる死亡保険金が、相続財産ではなかったという前提に立っています。
保険金と相続放棄の関係については、「相続放棄をしても「生命保険金」は受け取れる?」をご覧ください。
しかしながら、「相続財産の処分」をした場合でも、相続放棄ができる場合があります。民法の条文で規定されていることであるので、条文を詳しく確認しましょう。
(法定単純承認)
民法 第921条 次に掲げる場合には、相続人は、単純承認をしたものとみなす。
一 相続人が相続財産の全部又は一部を処分したとき。ただし、保存行為及び第602条に定める期間を超えない賃貸をすることは、この限りでない。
民法 第921条 次に掲げる場合には、相続人は、単純承認をしたものとみなす。
一 相続人が相続財産の全部又は一部を処分したとき。ただし、保存行為及び第602条に定める期間を超えない賃貸をすることは、この限りでない。
民法の条文にあるように、「保存行為」に該当するのなら、単純承認をしたものとみなされることはないのです。
そして気になるのは、相続債務(被相続人の借金)を遺産から支出する行為は、保存行為にあたるのか? ということです。相続人が、被相続人の債権者から取り立てをうけた場合に、遺産のなかから返済できる額であれば、遺産から支出して返済してしまうことは珍しくありません。相続放棄ができるかできないかは相続人にとって重要なことですので、しっかり確認しましょう。
そもそも「保存行為」とは?
民法921条1号但書の「保存行為」の定義は、明文で定められていませんが、「保存行為=財産の現状を維持するための一切の行為」であると考えておけばよいでしょう。たとえば「腐ってしまう物の処分」などが挙げられるでしょう。腐ってしまうものは置いておいたら経済的な価値がゼロになるだけですから、処分をして換金してしまった方が、財産の現状を維持することにつながるのです。本来「相続財産の売却」は処分行為ですが、この場合は保存行為にあたるため、相続放棄ができるのです。
相続債務の弁済は保存行為に当たるのか
相続債務の弁済(被相続人の借金を支払うこと)は、保存行為であり、「相続財産の処分(法定単純承認事由)」に該当しない考える見解が有力であると言えます。プラスの相続財産を使ってマイナスの相続財産(被相続人の借金)を弁済したとしても、トータルの遺産規模には影響がないためです。ここで気になるのは、どの資産を使って弁済しても、結論は同じなのか? ということです。ここは場合に分けて説明をします。
- 1: 相続財産である現金による弁済→保存行為になると考えられる
- 2: 相続財産である預貯金を取り崩して弁済→保存行為になると考えられる (注)預貯金を取り崩すということは、金融機関に対して預貯金債権を行使して払い戻しを受け、払い戻しにかかる債権は消滅することになる。しかしながら現金による弁済と実態はほとんど変わらないのであるから、保存行為になると考えるのが妥当であるとする見解がある。
- 3: 相続財産である不動産等の財産を換金して弁済する→勝手に行ってはいけない(つまり勝手に行ってしたら保存行為にならないことが考えられる)。
3の場面について補足をすると、3の場面であれば家庭裁判所の処分命令を得て行うことになります。参考までに条文をあげておきましょう。
(相続財産の管理)
民法 第918条2項 家庭裁判所は、利害関係人又は検察官の請求によって、いつでも、相続財産の保存に必要な処分を命ずることができる。
民法 第918条2項 家庭裁判所は、利害関係人又は検察官の請求によって、いつでも、相続財産の保存に必要な処分を命ずることができる。
「相続人の固有財産による相続債務の支払い」の扱い
相続人が、その固有財産(つまり相続人自身の財産)で被相続人の借金を返済した場合は相続財産の処分にはなりません。昔の裁判事例でも、次のように言及されています。
■福岡高宮崎支決平成10年12月22日家月51巻5号49頁
抗告人らのした熟慮期間中の被相続人の相続債務の一部弁済行為は、自らの固有財産である前記の死亡保険金をもってしたものであるから、これが相続財産の一部を処分したこにあたらないことは明らかである。
この事例は、被相続人が死亡した場合に相続人が得ることができる死亡保険金が、相続財産ではなかったという前提に立っています。
保険金と相続放棄の関係については、「相続放棄をしても「生命保険金」は受け取れる?」をご覧ください。