相続財産のなかから、葬儀費用を支払うことは珍しくないでしょう。日本の慣習によると葬儀を行うのは通常のこと。費用の目途が立たなければ、遺産から葬儀費用を支払うことがあるのです。
この「葬儀費用の支払い」が、相続放棄との関連で問題になることがあります。そう、遺産から葬儀費用を支払うと、法定単純承認事由の「処分」に該当し、相続放棄ができなくなるのでは? との疑問が生じるのです。
具体例を出しましょう。札幌市在住のAさんが亡くなり、Aさんが遺した財産で葬儀を行ったとしましょう。しかしながら葬儀が終わった後に、想像もしていなかった相続債務(被相続人が生前に負った借金等)が存在していたとしましょう。
借金の相続を回避するためには3ヵ月以内に「相続放棄」をすればよいのですが、一つ懸念点があります。相続財産のなかから葬儀費用を支払っていますが、これは民法における法定単純承認事由である「処分」にあたり、相続放棄ができないのではないでしょうか? というのも遺産から「何か」を購入するために支出してしまうと「遺産の処分」に該当するのですから、葬儀費用の支出も同様なのではないか? との疑問が生じるのです。
遺産からの葬儀費用の支出が法定単純承認事由に当たるか、検討しましょう。
過去の裁判事例によると、次のように述べられています。
あくまでも個別具体的な事例についてですが、裁判所は葬儀費用の支払いは民法921条の法定単純承認事由たる「処分」には当たらないと判断しました。ただこれはあくまで支出が相当な額であったと考えられ、もし支出が不相当な額であれば、処分に該当することも考えられなくはありません。
これについても裁判で争われた事例があります。
裁判所は、次のように述べています。
これも個別具体的な事例ですが、仏壇や墓石を購入するのは自然であって、さらにはその費用が社会的にみて不相当に高額でないのであれば処分に該当しない、と判断されています。
この「葬儀費用の支払い」が、相続放棄との関連で問題になることがあります。そう、遺産から葬儀費用を支払うと、法定単純承認事由の「処分」に該当し、相続放棄ができなくなるのでは? との疑問が生じるのです。
具体例を出しましょう。札幌市在住のAさんが亡くなり、Aさんが遺した財産で葬儀を行ったとしましょう。しかしながら葬儀が終わった後に、想像もしていなかった相続債務(被相続人が生前に負った借金等)が存在していたとしましょう。
借金の相続を回避するためには3ヵ月以内に「相続放棄」をすればよいのですが、一つ懸念点があります。相続財産のなかから葬儀費用を支払っていますが、これは民法における法定単純承認事由である「処分」にあたり、相続放棄ができないのではないでしょうか? というのも遺産から「何か」を購入するために支出してしまうと「遺産の処分」に該当するのですから、葬儀費用の支出も同様なのではないか? との疑問が生じるのです。
遺産からの葬儀費用の支出が法定単純承認事由に当たるか、検討しましょう。
参考 民法 第921条
次に掲げる場合には、相続人は、単純承認をしたものとみなす。
一 相続人が相続財産の全部又は一部を処分したとき。~以下、省略~
葬儀費用の支出は、常識の範囲内であれば「処分」ではない
一概には言えませんが、葬儀費用の支払いは、常識の範囲内であれば「処分」にならないと考えられます(しかしながら相続債務があることを知っていて葬儀費用を遺産から支払うと、もめ事になることが容易に想像できるため、場合によっては遺産からの支払いは避けるべきでしょう)。過去の裁判事例によると、次のように述べられています。
■東京控判昭和11年9月21日新聞4059号13頁
遺族として当然営まなければならない葬式費用に相続財産を支出しても、民法921条(旧民法1024条)1号に該当しない。
■大阪高決昭和54年3月22日家月31巻10号61頁
行方不明であった被相続人が死亡したことを所轄警察署から通知された相続人が、同署の要請により、ほとんど経済的価値のない被相続人の見回り品、僅少な所持金を引き取り、当該所持金を加えて被相続人の火葬費用並びに治療費にあてた行為をもって、民法921条1号の「相続財産の一部を処分した」ものということはできない。
遺族として当然営まなければならない葬式費用に相続財産を支出しても、民法921条(旧民法1024条)1号に該当しない。
■大阪高決昭和54年3月22日家月31巻10号61頁
行方不明であった被相続人が死亡したことを所轄警察署から通知された相続人が、同署の要請により、ほとんど経済的価値のない被相続人の見回り品、僅少な所持金を引き取り、当該所持金を加えて被相続人の火葬費用並びに治療費にあてた行為をもって、民法921条1号の「相続財産の一部を処分した」ものということはできない。
あくまでも個別具体的な事例についてですが、裁判所は葬儀費用の支払いは民法921条の法定単純承認事由たる「処分」には当たらないと判断しました。ただこれはあくまで支出が相当な額であったと考えられ、もし支出が不相当な額であれば、処分に該当することも考えられなくはありません。
遺産で仏壇や墓石を購入したら「処分」に該当?
では、相続財産で仏壇や墓石を購入する行為はどうでしょうか。これも相続財産を使って相続人が売買契約をしているため、「処分」に該当し、法定単純承認事由に該当するのではないか? という疑問が生じます。これについても裁判で争われた事例があります。
裁判所は、次のように述べています。
■大阪高決平成14年7月3日家月55巻1号82頁
被相続人の死後被相続人名義の預金を解約し墓石購入費に充てた行為が、民法921条1号の「相続財産の処分」に当たるとして、相続放棄の申述を却下した審判に対する抗告事件において、預貯金等の被相続人の財産が残された場合で、相続債務があることが分からないまま、遺族がこれを利用して仏壇や墓石を購入することは自然な行動であり、また、本件において購入した仏壇及び墓石が社会的にみて不相当に高額のものとも断定できない上、それらの購入費用の不足分を遺族が自己負担としていることなどからすると、「相続財産の処分」に当たるとは断定できない~以下、省略~
被相続人の死後被相続人名義の預金を解約し墓石購入費に充てた行為が、民法921条1号の「相続財産の処分」に当たるとして、相続放棄の申述を却下した審判に対する抗告事件において、預貯金等の被相続人の財産が残された場合で、相続債務があることが分からないまま、遺族がこれを利用して仏壇や墓石を購入することは自然な行動であり、また、本件において購入した仏壇及び墓石が社会的にみて不相当に高額のものとも断定できない上、それらの購入費用の不足分を遺族が自己負担としていることなどからすると、「相続財産の処分」に当たるとは断定できない~以下、省略~
これも個別具体的な事例ですが、仏壇や墓石を購入するのは自然であって、さらにはその費用が社会的にみて不相当に高額でないのであれば処分に該当しない、と判断されています。